ラジオ放送 変更のお知らせ

お知らせしていました大船渡市のラジオ放送ですが、
ラジオを聴いてくださった方から朗読がなかったと指摘を頂きました。
調べてみましたら、手違いで日時が誤っていました。
ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。
新しい放送日時は以下の通りです。
宜しくお願い致します。
3月6日(火) 午前6時30分 午後7時
3月9日(金) 午前6時30分 午後7時
3月11日(日) 午前9時30分

3LDKの団地のベランダ、
形状も広さも身体が憶えている。
時々一人でそのベランダを歩く。
白杖を持たずに勘で歩く。
父ちゃんが大切にしていた寒蘭の鉢植えに水をやるのが僕の仕事だ。
ジョーロで水をやりながらふとお日様のぬくもりに気づく。
最後の一滴まで水をやってからジョーロを置いて腰を下ろす。
僕はお日様の方に両手を出してぬくもりをすくう。
お日様の光をすくう。
指の隙間から零れ落ちないように両手をしっかりとお椀の形にしてすくう。
光が少しずつ蓄えられていく。
やがて溢れだす。
僕は静かにそれを凝視する。
見えない光の美しさに圧倒される。
ふと小さな風が通り過ぎる。
うれしいのか悲しいのか区別できない涙が一筋流れる。
見えない目から当たり前に流れる。
(2018年2月4日)

講演

ランチは名古屋飯だった。
名古屋コーチンのだし巻、手羽先、味噌カツ、エビフライ。
関係者と歓談しながら食事をした。
風景のない僕はその土地の言葉や食事などが旅の楽しみのひとつになる。
風景がないというのは悲しいことなのかもしれないが、
人との出会いはそれを越えて幸せまで感じることがあるから素敵だ。
どこかで僕の本を読んでくださった方が講演を聞きたいと思ってくださる。
いつか講演を聞いてくださった人がもう一度と言ってくださる。
有難いことだと思う。
名古屋駅近くの会場はたくさんの人だった。
音訳、点訳、副音声の製作に関わっておられる人達などが集まってくださった。
視覚障害に関わるボランティアの方々だ。
僕はいつものように話をした。
目の前はグレー一色の状態なので自分がどちらを向いているのかは判らない。
演台を触ることで方向を確認している。
会場の皆様の顔も一人も判らない。
目隠しをして講演しているようなものだ。
それなのに僕はいつも笑顔で話をしているらしい。
無意識にそうなっている僕が要る。
未来を見つめた時、人は笑顔になれるのだろう。
ありがとうを伝える時、人は笑顔がこぼれるのだろう。
ということは、講演をしている僕は幸せということになる。
幸せをいただいているのかもしれない。
お招きくださる人達に、講演を聞いてくださる人達に、心から感謝したい。
(2018年2月2日)

視覚障害者同士の再会

同世代の僕達は京都の小料理屋で再会した。
彼と知り合ったのは二年程前の東京での研修会だった。
お互いに見えなくなってから知り合ったのだから顔は知らない。
それぞれの暮らしぶりも思想も宗教も知らない。
知っているのはお互いの年齢と失明した時期とその原因、
そして僕は京都で彼は横浜で生きているということくらいかもしれない。
たわいもない話をしながらの歓談だった。
僕達はなんとなくそれぞれの人生を愛おしんだ。
彼は突然携帯電話で僕のホームページにアクセスしてみせた。
機械音痴の僕は携帯電話のメールもできない。
彼はインターネットにアクセスしたりYouTubeで音楽を聴いたりできるのだそうだ。
いつもそういう人に会えばうらやましいとは思うのだけれど、
生来の勉強嫌いが邪魔をしてしまう。
僕はこれでなんとかなっているからいいんだと言い訳はいつも雄弁だ。
彼の言葉から、彼が僕のブログを楽しみに読んでくれているのが判った。
時々そういう仲間に出会う。
とてもうれしくなる。
僕の言葉が仲間の思いとどこかで重なることがあるとすれば、
それはこの上もなく光栄なことだと思う。
同じ未来を見つめているということになる。
彼は知り合いの気になる20歳代の若い視覚障害者の職業について語った。
できる応援をしたいと言った。
僕も僕にできることをコツコツとやっていこう。
僕は彼と彼のチャーミングな奥様と硬い握手をして別れた。
(2018年1月29日)

真っ白

真っ白が落ちてくる。
何万個、何億個、数えきれない真っ白が落ちてくる。
次々と落ちてくる。
音もたてずに落ちてくる。
子供にも大人にも落ちてくる。
男性にも女性にも落ちてくる。
見える人にも見えない人にも見えにくい人にも落ちてくる。
僕の上にも落ちてくる。
世界が真っ白に変化していく。
真っ白に包まれた僕はどんどん浄化されていく。
少年に戻っていく。
心は何度でも生まれ変われることに気づく。
真っ白に抱きしめられて笑顔になる。
笑顔が好きだと言ってくれたあの人に無性に逢いたくなる。
(2018年1月25日)

ラジオ番組のお知らせ 2月6日

本はいろいろな場所でいろいろな人と出会います。
そして風のように伝わっていくことがあります。
まさに活字の力です。
岩手県大船渡市のFMねまらいんというラジオ局で
『風になってください』が朗読されるという情報が出版社から届きました。
ラジオ番組の名前は、「グッドオールディーズ」です。
大船渡市で音声訳を行っているボランティア団体「オープンハート」による番組で、
お気に入りの本の読み聞かせを放送されているそうです。

放送日時は、2月6日の、午前6時30分から7時。
再放送が2回あり、
9日の午前6時30分から7時と、11日の午前9時30分から10時。

ローカルラジオ局ですが、無料スマートフォンアプリで、全国どこででも
聞くことができるそうです。
ラジオ局のHPのアドレスを貼り付けておきます。
http://fm-nemaline.com/

僕も感謝しながら聞きたいと思っています。
楽しみです。

仲間

視覚障害者の代筆代読、移動の支援などを行う同行援護という制度がある。
その資質向上当事者研修が二泊三日で東京で開催された。
日本のあちこちから定員を超える受講者が集まった。
全盲の方もおられたしロービジョンの方もおられた。
生まれつきの視覚障害者の方もおられたし人生の中途でという方もおられた。
性別も世代も居住地も職業も異なっていた。
思想も宗教も違っていた。
この国で同じ時代を視覚障害者として生きているということだけが共通点だった。
いろいろな意見が出た。
いろいろな考えが交差した。
それぞれの人間の個性が輝いた。
キラキラと輝いた。
見えにくい目が見えない目が未来を見つめていた。
三日間は無事に終わった。
東京から京都に帰る新幹線の中で僕は無性にコーヒーが飲みたくなった。
ホットコーヒーを注文した。
疲労感をコーヒーに混ぜながらゆっくりと飲んだ。
充実感がじわじわと身体に浸透していった。
講師としての僕はやっぱり力不足だった。
それでも充実感につながったのは何故だろう。
見たことのない仲間の笑顔が脳裏に浮かんだ。
講師と受講生、それはいつもの大学での先生と生徒という関係ではなかった。
優秀な生徒達が出来の悪い講師を支援してくれているという構図だった。
僕は心から仲間に感謝した。
僕も当事者の一人としてしっかりと未来に向かいたい。
(2018年1月22日)

カキフライ定食

その食堂はライトハウスの近くにある。
冬がきたら毎年一回はその店のカキフライ定食を食べることにしている。
僕の年中行事のひとつだ。
味もいいがとにかくボリュームが凄いのだ。
最初知らずに頼んだ時、お腹が空いていたのに残してしまった。
それからは毎年気合を入れてお店に向かった。
でもさすがに食べられる量にも限界を感じるようになってきて、
数年前からは定食をSサイズにしてご飯も小にしている。
もちろんそれでも満足している。
お店はだいたいの場所は判っているつもりなのだけれど、
一か月に一回行くか行かないかくらいなので自信はない。
手前で止まってしまうか通り過ぎてしまうかが多い。
二週間ほど前にもチャレンジしたが失敗した。
行ったり来たりしているうちにさっぱり判らなくなってしまった。
仕方なく通行人の足音を探したがなかなか出会えなかった。
10分以上立ち尽くしていた。
やっと止まってくれた男性がお店の前までサポートしてくださって、
臨時休業の案内を読んでくださった。
溜め息が出る程がっかりした。
運が悪い日だった。
学習した僕は今度はあらかじめ電話で開いているかを確認して出かけた。
おいしいものを食べる時にだけ丁寧に努力する性格は自分でも恥しいくらいだ。
そろそろお店かなと思って歩き、いつものように通り過ぎたかなと引き返した。
そしてまた通行人に教えてもらおうと思って止まった瞬間声がした。
「どこか探しておられますか?」
僕は食堂の店名を告げた。
「ここですよ。」
僕がこの辺かなと思って止まった場所はばっちりだったのだ。
僕の迷子状態に気づいた彼女は躊躇なく声をかけてくださったのだろう。
僕はグッドッタイミングの彼女に御礼を言って店に入った。
今年もSサイズのカキフライ定食をおいしく完食した。
例年よりもおいしく感じた。
お店に入る瞬間にやさしい人に会って心が喜んでいた。
その状態で好物のアツアツのカキフライを食べたのだからおいしさは倍増したに違い
ない。
見えなくて歩くというのは危険もある。
怖い時もある。
でも、とっても幸せになる時があるのも真実だ。
相手が見えるか見えないかなんて関係ない。
見えても見えなくてもやさしさは伝わってくる。
やさしさに出会う確率は見えない方が高いかもしれない。
(2018年1月18日)

あいらぶふぇあのご案内

僕が所属している京都府視覚障害者協会、僕が理事をしている京都視覚障害者支援セ
ンター、そして京都ライトハウス、僕が評議員をしている関西盲導犬協会の4団体が
協力して毎年啓発イベントを開催しています。
今年は1月25日(木)から28日(日)の4日間、
例年と同じ大丸デパート京都店の6階のイベントホールが会場です。
見えない人、見えにくい人の暮らしなどを知ることができます。
アイマスクでコーヒーを飲んだりの体験もできます。
入場は無料です。
1人でも多く参加してくださることが僕達も参加しやすい未来の社会につながってい
きます。
僕の講演は初日の25日(木)15時半からです。
また「風になってください」と「風になってください2」のサイン本が特別価格で販
売されています。
詳しくは京都ライトハウスのホームページをご覧ください。
(2018年1月16日)

初釜

赤い毛氈に静かに座る。
久しぶりの正座で背筋が伸びる気がする。
運ばれた花弁餅をゆっくりと味わう。
微かな白味噌の風味とごぼうの食感が口の中で調和する。
サポーターが床の間の掛け軸や米俵の置物などを耳元でそっと説明してくれる。
やがて薄茶の茶碗が僕の前におかれる。
「お点前、頂戴致します。」
両手を畳にについて挨拶をする。
昔教わった作法はもうほとんど忘れてしまっている。
見よう見まねもできない。
仕方がないので僕流で頂くことにする。
美味しくが一番大切と教えてくださった先生を思い出しながら茶碗を口元に運ぶ。
ほろ苦さが心を落ち着かせる。
僕の茶碗には梅と松の絵が描かれてあった。
なつめにも宝ヅくしの絵が描かれてあるらしい。
初春という言葉がとてもよく似合う空間で
時間は止まったふりをする。
心が穏かになっていく。
この穏やかさの向こうに平和が存在するのだろう。
世界中が平和でありますようにと何故か願っている僕がいた。
(2018年1月14日)