「おはようございます、小林です。
お手伝いしましょうか?」
バスを降りた僕に声がかかった。
「お願いします。」
僕は彼女のひじを掴んで歩き出した。
「どちらの小林さんですか?」
いくつかの会話のやりとりで、
記憶の断片が少しつながった。
画像のない記憶なのだから仕方がない。
そして、また一晩眠れば、
記憶喪失になるだろう。
でも、こうして会話を交わし、一緒に歩く。
人間同士っていいよなぁ。
朝からいい日だなぁ。
記憶をつなぎながら歩いていたら、
先日、講演会場で出会った女性が、
彼女の同級生だと教えてもらった。
瞬間、みかん色のみかんが蘇った。
香りまで思い出した。
その時、その同級生にお土産にいただいたみかんの香りが、
移動中の車内に広がって、感激したのだった。
僕は、香りと一緒に、やさしさを頬張った。
みかん色が記憶に残りやすいということではありません。
おいしい食べ物が記憶を助けるということでもありません。
たまたまです、たまたま。
(2013年11月28日)