JR桂川駅に向かうバスに乗車した。
午前7時半の通勤時間帯のバスは、
それなりに込んだ雰囲気だった。
僕は頭上に手を伸ばし、手すりを探して握った。
ほどなく、一人の女性の声がした。
空いてる席を案内する声だった。
声だけではなかなか見つけられない僕に、
最終的に、彼女は僕の手に座席を触らせてくださった。
「ありがとうございます。」
僕はお礼を言いながら、腰を下ろした。
目が見えれば、空いてる席を探して、
座って駅まで行ける。
こんな普通の何でもないことを、
見えない僕は、
とてもうれしく、幸せだと感じるのだ。
それにしても、声をかけてくださるのは、
圧倒的に女性が多い。
男前のせいかと期待しながら、
他の視覚障害者に尋ねたら、皆そうだった。
今朝も、うれしいなと感謝しながら、
また女性だったなと、
ちょっとの淋しさを感じながらバスを降りた。
バスを降りて、点字ブロックを探そうとして迷った瞬間、
男性のサポートの声がした。
僕はすかさず、ヒジを持たせてもらって、
駅へ向かった。
男性と歩くというだけで、
何か妙にうれしかった。
彼とホームで電車を待っている間に、
トラブルで少し電車が遅れるとのアナウンスがあった。
待ち時間に、彼と少し話をした。
「こういう経験は初めてなので、上手でなくてすみません。」
繰り返された彼の言葉に、
彼の誠実さがにじみ出ていた。
ホームはどんどん人が増えていった。
7分送れで到着した電車もすし詰め状態だった。
やっと乗車し、一歩も動けない状態だった。
次の駅で降りなければならない僕に、
「電車が駅に着いたら、かきわけて前に進みます。
しっかりと持って、ついてきてください」
彼の頼もしい声だった。
電車が駅に着いた。
降りるために、反対側のドアに向かって、
半分、人に押しつぶされそうになりながら、
彼のヒジを必死に持って歩いた。
やっと、電車を降りることができた。
彼は、僕を降ろすと、
「お気をつけて。」という言葉をホームに残して、
再び電車に乗り込んでいった。
「ありがとうございます。」
僕は、満面の笑みを浮かべて、
頭を下げた。
男同士って、やっぱり最高!
(2013年10月3日)