いつもの地元の駅に着いたのは、
21時を過ぎていた。
僕は、慎重に階段を探して、
白杖で確認しながら上り始めた。
「お手伝いしましょうか?」
階段の途中、右側から、少年の声がした。
階段はほぼ上りきる手前くらいだったし、
慣れている駅だから、改札口までの経路も判っていた。
もしかして、声の主が大人だったら、サポートを辞退していたかもしれない。
僕は、勇気を出して声をかけてくれたであろう少年に、
向かい合いたいと、とっさに判断した。
「じゃあ、改札口までお願いします。」
僕は、少年の肘を持った。
少年は、学校名を告げ、去年福祉授業で、
僕の話を聞いたと説明した。
塾の帰りで遅い時間だということや、
駅には、母親が迎えに来てくれることなどを、
改札口までの短時間で説明した。
敬語の使い方や、無駄のない言葉、小学生とは思えない大人びた感じだった。
改札口に着いた時、僕は胸ポケットから、ありがとうカードを取り出して、
少年に渡した。
「ありがとうございます。」
少年は、しっかりと頭を下げながら、
これまた、ちょっと大人びた感じの挨拶をした。
僕が前方に向き直って、歩き始めた瞬間、
いかにも、我慢しきれずにこぼれてしまったような、
ちょっとうめき声にも似たような、小さな声が聞こえた。
「よっしゃぁ、二枚目!」
少年は、よっぽどうれしかったのだろう。
僕は振り返って、
「3枚で、ポケットティッシュと交換だからね。
気をつけて帰るんだよ。」
笑いながら、声をかけた。
「はい。」
はにかんだ少年の、照れくさそうな声が聞こえた。
いつの時代も、子供っていいよなって思った。
(2013年6月12日)