出かけようとして階段を降りたところで、
同じ団地の人が声をかけてくださった。
「お出かけですか?」
「はい、ちょっと。」
「雨が降っていますよ。」
「大丈夫、傘持ってます。行ってきまーす。」
僕は歩き始めた。
数歩進んだところで、その方が花を育てておられることを思い出した。
僕は振り返った。
「紫陽花、うれしそうでしょう。」
ほんの少し間が空いて、
「ほんまにうれしそうやわ。」
彼女のうれしそうな返事が返ってきた。
ほんの少しの間、彼女は紫陽花に目を向けたのだろう。
「そろそろ入梅ですかね。」
僕もうれしそうに返事して、また歩き始めた。
(2013年5月28日)