今朝は、9時過ぎのバス、ちょっとのんびりの出勤だった。
込んではいないだろうなと思いながら、バスに乗車した。
確かに、込んではいなかったが、ガラガラの雰囲気でもなかった。
僕は、座席に座ることをあきらめて、
手すりを掴んで立っていた。
突然、静かな社内で、ちょっと大き目の声が聞こえた。
「おにいさん、こっちこっち。」
僕は、もうおにいさんではないよなと思いながら、
でも、声の向きからひょっとしてと思って、
自分を指しながら、
「僕ですか?」
「そうそう、おにいさん。」
ちょっと離れた場所から、
僕に空いてる席を教えようとするおばあちゃんの声だった。
「腰が痛いから、そこまで行かれへんねん。私の横が空いてる。」
僕が、その声に向かって動き始めた瞬間、
別の乗客が、
僕の手を持ってサポートしてくださった。
僕は、おばあちゃんの横の席に座った。
僕が、おばあちゃんにも、そのサポートしてくださった方にもまだお礼を伝えな
いうちに「お嬢さん、ありがとうね。」
おばあちゃんが、サポートをしてくれた女性に声をかけた。
「いいえ。」
女性は、ただそれだけの返事だったけど、
確かに、笑顔の返事だった。
大正生まれだというおばあちゃんは、
足腰は痛いし、耳も遠くなったし、
動くのは口だけと笑った。
「でもな、生きてる限りは、世間様の役に立ちたいねん。」
耳が遠いのを理解するにはじゅうぶんの大きな声だった。
しばらくして、
おばあちゃんは、また突然話し出した。
「こうして見たら、おにいさん、いい男やな。」
ヒソヒソ話にはならないボリュームだった。
僕は、さすがに恥ずかしくなって、下を向いた。
僕の様子を見て、おばあちゃんはまた、大きな声で笑った。
楽しそうに笑った。
おばあちゃんの笑い声が、朝の車内に充満した。
のどかな空気が充満した。
(2013年5月9日)