横断歩道の点字ブロックを足裏で確認する。
誘導ブロックの直線に足を合わせることで、
進行方向を確定するのだ。
そして、音響信号が鳴り始めたら、
向こう側に歩き出す。
まっすぐに歩くことを心がけるのだが、
実は、見えないでまっすぐなんて、
神業みたいなものだ。
白杖を左右同じように振りながら、
周囲の音を確認しながら、
自分を信じて進む。
長い距離の横断歩道だと、だいたい8割くらいの成功率だ。
2割は、途中で曲がってしまって、たどり着いたらガードレールだったりする。
その時慌てずに、それに対応する方法を身につけておくのが大切だ。
僕の場合は、だいたい右に曲がるので、到着地点がガードレールだったら、
そのガードレールを白杖で探りながら、
左に動けば、到着予定地点に着くということになる。
今朝は、ほとんどまっすぐに行けていたはずだったが、
途中から突然聞こえ始めた道路工事の音で、
不安のスイッチが入ってしまった。
結局、だいぶ右に曲がっていたようだ。
一度狂うと、なかなか修正できなかったりする。
横断歩道からバス停までの、
わずか100メートルくらいの歩道を、
右に行ったり、左に行ったりしながら、
バス停にたどり着けない結果になった。
解決できなくて立ちすくんだ。
頭では判っているのに、納得できない悔しさがこみあげた。
しばらくして、通行人が助けてくださった。
誰かはわからなかったけれど、
名前を読んでくださったので、
僕を知っておられる方だったようだ。
バス停の点字ブロックの上に僕を乗せると、
「行ってらっしゃい。」
僕の耳元で、小声でささやいて立ち去られた。
彼女の言葉が、身体にしみこんだ。
「行ってきます。」
僕も心の中でつぶやいた。
(2013年4月19日)