地下鉄四条駅。
階段の終わりまでもう少しというところで、
ホームに入ってくる電車の音が聞こえ、
僕の乗る予定の電車であることもアナウンスで確認できた。
僕がホームに着いた時には、
既にドアが開く音がして、
お客さんの乗降が始まっていた。
ここで急ぐのは、僕達には危険、
僕は、乗車をあきらめて、動きを止めた。
その瞬間、
「国際会館方面?」とマスク越しのおじいさんの声がした。
僕が返事をすると同時に、
おじいさんは僕の手を自分の肘に誘導して、
急いで動き始めた。
無事電車に乗ると、おじいさんは僕の手をとって手すりをつかませてくださった。
それから、すぐに離れられたので、
僕は御礼を言うことはできなかった。
つまり、見失ったのだ。
電車が次の駅に着き、僕は予定通り下車した。
ホームの点字ブロックの上に立ち、
僕は後ろを振り返ってきおつけをして、
深く頭を下げた。
おじいさんがいなければ、僕は一本後の電車になって、
予定の会議に遅刻していただろう。
おじいさんがこちらを見てくださっているかは判らないけれど、
自然にそういう動きになった。
それから、東西線に乗り換えるために、
エレベーターに向かった。
エレベーターに乗って、
行き先ボタンを探そうとしたら、
「東西線ホーム?」、
今度はおばあさんの声だった。
はいと返事をする僕に、
「今日はあたたかいね。」
おばあさんは挨拶をくださった。
「春ですね。」
僕は返した。
たった数秒、僕達はエレベーターの中で微笑んだ。
ホームに着いて、行き先を尋ねてくださった。
同じ方向だった。
おばあさんは、僕を手引きして電車に乗り、
空いてる席に座らせてくださった。
僕は、そっと、ありがとうカードを渡した。
ありがとうカードの表面には、
声をかけてサポートしてくださった人への感謝の言葉が印刷してある。
裏面には、ホームページの案内もある。
「ホームページがあるの?今度見てみるわね。」
僕はつい、「えっ!」と言ってしまった。
おばあさんは小声で、
「73歳」と打ち明けて笑った。
そして、「このカード、心があたたまるね。」
電車が市役所前駅に着いた。
おばあさんは、ドアまで誘導して、
僕を見送ってくださった。
僕は、手を口元につけて、
「心も春!」と叫んだ。
おばあさんの笑う声が聞こえた。
ドアが閉まった。
昨日、さわやかな若者の声を書いたけど、
そのせいかなぁ。
今日は、素敵なおじいさん、おばあさんの声でした。
やさしさに、年齢はないってことですね。
(2013年3月8日)