打ち合わせなどが遅い時間までなったので、
友人が四条烏丸まで車で送ってくれた。
「いつもの場所」という説明を聞いて、
僕は四条通り西南側をイメージしながら車を降りた。
バス停の前あたりのはずだ。
ところが、何か雰囲気が違った。
バス待ちの人もいないみたいだし、
何より、盲導鈴の音がしない。
駅や公共施設、いろんな場所で、キンコーンと鳴っている音、
あれは、僕達に入り口を教えている音で、
盲導鈴(もうどうれい)という。
しばらく考えて、車が烏丸通り北東側に停車したことに気づいた。
確かに、そこで下車したことも幾度もある。
友人は、僕が車を降りる直前、
和服の女性が何か配っていることを教えてくれていた。
料理屋さんのチラシかなと話していた。
その和服の彼女がいるに違いないと思った僕は、
「阪急電車につながる階段を教えてください。」と声を出した。
近くで返事がして、
着物の袖が手に触れた。
彼女に捕まって、歩き出そうとした瞬間、
「阪急だったら、一緒にいきましょう。」
若い二人連れの女性の声だった。
「お願いします。」
彼女達の手引きで、僕は何の問題もなく駅まで行き、
同じ経路の一人と一緒に電車に乗った。
大阪まで帰る途中の女子大生だった。
僕達は、普通に、とりとめもない話をした。
途中の駅で、ドアが開く時など、彼女はそっとそれを僕に伝えた。
僕は、お礼を言って、桂駅で下車した。
「お気をつけて。」
さわやかな声が、背中でささやいた。
昨日は、午前中の小学校での授業を終えて、
年に数回しか使わない九条駅で迷子になった。
階段を見失ってウロウロし始めた僕に、
「手伝いましょうか?」
若い男性の声だった。
彼は、僕の目的の駅の二つ手前の駅へ向かう途中だった。
彼の手引きで、階段を降り、ホームに着いた。
電車が到着するまでの数分間、
僕達は、とりとめもない話をした。
電車に乗ると、
彼は空いている席に僕を座らせて、
自分が降りる予定の駅まで僕の前で立ったまま過ごした。
ここにも、さりげないやさしさがあった。
「お先に失礼します。お気をつけて。」
彼の声もさわやかだった。
迷子になって、なかなかサポーターを見つけられない日もある。
でも、ほとんどの日、こうしてやさしい人達が助けてくれる。
その度に、僕は幸せになる。
たくさんのやさしさに出会える人生、自然に豊かになっていく。
僕は、見えている頃、見えない人のサポートなんてできなかった。
後悔している。
さわやかな若者達の声、素敵だなと思う。
(2013年3月7日)