冬の終わりになると、
キンカンが届く。
小学校時代の友人が届けてくれるのだ。
彼女は、阿久根小学校で同級生だった。
それ以後、どんな人生だったのか、僕は知らない。
2005年に、僕の著書「風になってください」が鹿児島県の新聞で紹介され、
たまたまその記事に気づいて連絡をくれたのだ。
当たり前だが、お互いに48歳になっていた。
今ではメールでのやりとりだが、
最初の連絡は、点字の手紙だった。
この年齢になると、お互いに口には出さないが、
人生の大切なものを、それぞれに学んできたのだろう。
根底にあるのは、ひとつだけ。
「生きているって、素晴らしいよね。」
いつの頃からか、冬の終わりに、
彼女からキンカンが届くようになった。
「春姫」というブランド名のキンカンだ。
大粒のキンカンをかじると、
口一杯に、甘酸っぱい早春がひろがる。
不思議なことに、口の中で、
だいだい色を思い出し、太陽の光を感じるような気がするのだ。
愛おしい季節、春はそこまで。
(2013年2月25日)