さわさわの男子トイレで用を足して、
水洗のボタンを押そうとした瞬間、
手に何か、細い木の枝が触れた。
僕はそっと、それを触った。
小便器の横に、片方は水を含ませた布でくるんで、
そっと吊るしてあった。
僕は、右手の人差し指の腹で、その枝を触った。
10センチくらいの短い木の枝の途中に、ひとつ、小さな花を見つけた。
直感的に、梅の花だと思った。
見える人に確かめたら、
やっぱり、一輪の梅の花だった。
トイレに神様がいるかどうかは、僕は知らない。
でも、トイレに、梅の花一輪を飾ることのできる感覚は、
日本人ならではの財産のような気もする。
そう思える自分でありたいし、
そういう仲間がいることを幸せだと思った。
トイレを出たら、
舞い降りる雪が顔にかかった。
今年初めての、春のささやきを知った。
うれしくなった。
(2013年2月9日)