バスを降りるという行動

バスが終点の桂川駅に着いた。
白杖で前を探りながら、
少しずつ降車口の前方へ進む。
乗客は、普通に運賃箱に料金を入れる人もいれば、
運転手さんに定期を見せて降りる人もいれば、
両替をする人もいる。
だから、それぞれのスピードも必要時間も違う。
僕は、白杖が、前を歩く人にできるだけ当たらないように、
そして、間が開きすぎないように、
ゆっくりゆっくり、狭い歩幅で歩く。
降車口は、階段になっている場合が多いので、落っこちないように注意も必要だ。
目が見えていれば何でもないことが、
音や雰囲気だけで対応するのは、とても難しい。
バスを降りるという行動だけで、結構エネルギーを使うのだ。
今朝も、降車口の近くだと判断して、
降りるタイミングを計っていたら、
「どうぞ。」と後ろから声がして、
同時に、そっと背中を押してくださる手を感じた。
「ありがとうございます。」
僕は、ほっとした気持ちでバスを降りた。
点字ブロックを歩き始めた僕に、
「改札までご一緒しましょうか。」
先ほどの声の主が続けた。
「子供がウロウロしますけど。」
僕を手引きして歩く彼女の横を、
小さな子供が僕達の様子を伺いながら一緒に歩いた。
子供連れのおかあさんが声をかけてくださったのだった。
子供は、お母さんの行動を見ていた。
きっと、その子供が大人になったら、
また、声をかけてくれる人になっていくのだろう。
僕は、とっても幸せな気持ちになった。
改札口に着いて、ありがとうカードを渡したら、
2枚目ですよとの返事だった。
爽やかな朝になった。

(2012年1月15日)