確か、この辺りのはずなんだけど、
僕は、何度か来店した時の記憶をたどりながら、
白杖でさぐりながら、
数回、行ったり来たりした。
それでも、お目当ての店の入り口は見つけられなかった。
僕の日常では、たまに起こることだ。
落ち着いて、のんびりと、慌てずに、
そう自分に言い聞かせて、再チャレンジ。
でも、やっぱり見つけられない。
あきらめようと思うと、前回の来店時のおいしかった焼きそばの味が蘇る。
悔しいなぁ。
後ろ髪をひかれながら立ち去ろうとした瞬間、
「お兄ちゃん、どうしたん?」
近寄ってきたのは、まぎれもない、おばちゃん軍団。
僕はもうお兄ちゃんではないけれど、この場合、それはどうでもいいこと。
行きたい店を告げると、
「私らも、そこ行くねん。一緒に行こうか、すぐそこやけど。」
「ありがとうございます。助かります。」
僕は咄嗟に、一人のおばちゃんの肘を持った。
「あんた、久しぶりに、男前と歩くやろ。」
「ドキドキしてるやろ。」
「ぶつけたらあかんで。」
僕はもちろん男前ではありません。
でも、飛び交うヤジをかわしながら、外野の声援に笑いながら、僕達は歩いた。
一筋、道を間違っていたらしく、
店まで数十メートルはあった。
店に着いた時、
「ごめんね。足みたいな腕で。」
僕を手引きしてくれたおばちゃんが笑った。
「大助かりですよ。手でも足でも、大助かり。」
僕も笑った。
「じゃあ、この次は、おんぶしてあげるわ。」
僕達は、大声で笑った。
その流れで食べた焼きそば、やっぱりおいしかった。
おばちゃん、大好き!
(2012年11月9日)