家のポストに二種類の新聞が入っていた。
どちらも郵便で送られてきたものだった。
京都新聞と点字毎日新聞だった。
たまたま同じ日に届いた偶然に驚いた。
京都新聞は京都府と滋賀県で一番読まれている地方紙だ。
点字毎日新聞は毎日新聞社が発行している日本で唯一の点字新聞だ。
そのどちらの新聞にも僕の新刊を紹介した記事が掲載されていた。
見える人にも見えない人にも見えにくい人にも紹介してもらえたということになる。
しみじみと光栄なことだと思った。
何故本を書くのかと問われることがある。
実は、僕自身には本を書くというような意識はあまりない。
見える人も見えない人も見えにくい人も、皆が笑顔で参加できる社会、そこに向かう
ための発信のひとつだ。
学校で福祉授業を受け持つこと、どこかで講演をすること、白杖で歩くこと、ありが
とうカードをお渡しすること、すべて同じ意味がある。
そして、本を書くということもそのひとつだ。
僕にとって4冊目の今回の本、刊行直後に先輩と電話で話をする機会があった。
先輩は先天盲で使用文字は点字だ。
僕が失明して間もなく知り合ったのだから、もう30年近いお付き合いとなる。
「すぐにアマゾンに注文したのよ。早く読みたいから。」
僕は一瞬返事に困った。
届く本は普通の文字だから彼女にはすぐに読むことはできない。
どう返事しようかと迷っている僕に彼女は付け加えて話された。
「最初の本を読んだ時、私の言いたいことを書いてくれているって思ったの。
届いたらすぐにボランティアさんに読んでもらうつもり。」
僕が今日まで歩いてこられたのは、出会った先輩、仲間の影響が大きい。
見えなくても見えにくくても、精一杯生きていこうとする人間の輝きをいろいろな場
面で教えてもらった。
本を書くということは、先輩や仲間へのありがとう返しの意味もあるのかもしれない
。
(2025年3月2日)