いつもの靴にゴム製のスパイクをひっかけて歩いた。
雪道ですべらないためのものだ。
もう10年くらい前、義弟にもらった。
まさか二日続きで使う日があるとは思ってもみなかった。
三日間の研修の日がたまたま大寒波の日となってしまったのだ。
僕の住む滋賀県大津市も、研修会場のある京都市も雪が積もった。
僕は電車の遅延などを予想して早めに動いた。
研修講師なので遅れることは許されなかった。
始発のバスで動いたのだ。
まだ誰も歩いていない感じの雪道、雪を踏む感覚はうれしかった。
一歩ずつ慎重に足を動かした。
歩く道の途中で幾度か不安になった。
歩道と車道の段差を確認するのが難しかったのだ。
たまに通る車のエンジン音を聞きながら方向を修正した。
JRと地下鉄を乗り継いで二条まで辿り着いた。
ここからバスに乗れば、会場のライトハウスに行ける。
僕はバス停に向かって点字ブロックの上を歩き始めた。
いつもは鼻歌を歌いながらでも歩ける場所だ。
思ったよりも雪は深かった。
積もった雪は白杖の先を飲み込んだ。
足の裏での点字ブロックの確認も限界だった。
僕は立ちすくんでしまった。
ここで動けばもっと方向が分からなくなる。
間違って車道にでも出れば大変なことになる。
そう思った時だった。
「どこに行かれますか?」
まさに天使の声だった。
僕は向かっているバス停を伝えた。
彼女はバス停までのサポートを引き受けてくださった。
バス停には結構な人が並んでおられるようだった。
僕はその列を無視して、先頭までの誘導をお願いした。
列の後ろに付いて動くのは難しい。
急いで滑る危険性もあった。
僕は周囲にすみませんと言いながら先頭まで連れて行ってもらった。
「本当に助かりました。ありがとうございました。」
僕は彼女にありがとうカードを渡しながら感謝を伝えた。
間もなくバスがきた。
僕に気づいた乗客の方がすぐに座らせてくださった。
僕はなんとなくほっとしていた。
「きれいだね。」
僕の横に立っていた男性がお連れの女性に話された。
「うん、雪の京都、ラッキーだよね。」
その言葉を聞きながら僕も車窓を眺めた。
真っ白な世界を思い出した。
雪はいいなと僕も思った。
(2025年2月11日)