スタバのコーヒーカップ

福祉授業の依頼があった小学校は僕が利用する駅からは少し距離があった。
彼は駅から小学校までの送りのボランティアを引き受けてくださった。
帰りも学校から自宅まで送ってくださることになっていた。
車でらくちん、僕にとってはとっても有難いことだった。
朝早めに待ち合わせた僕達は近くのスターバックスコーヒーに立ち寄った。
スタバのコーヒーは基本的には紙コップで提供される。
でも、希望すれば陶器のマグカップにしてもらえるし、別料金もかからない。
彼は紙コップ、僕はマグカップで注文した。
美味しいコーヒーの香りの中で彼が尋ねた。
「マグカップは持ち手があるからひっくり返したりする危険性が少ないからなの?」
どうやら、僕の視覚障害が理由でマグカップを選択していると勘違いされたらしい。
「違う違う。コーヒーを飲む時の唇の感覚が好きだからですよ。」
そして紙コップでもマグカップでも僕はこぼさないと偉そうに笑って付け加えた。
マグカップには一部彫り込んだ部分があるのを指先が発見した。
スタバのマークが彫り込んでデザインされているのだと彼が教えてくださった。
豊かな朝の時間を過ごしてから僕達は小学校に向かった。
福祉授業は講演、サポート体験、質問タイムというメニューだった。
給食を挟んで4時限の長丁場だった。
終了した時には彼の車は既に校門に到着していた。
帰り道にまたスタバのコーヒーを車内で飲みながらという提案を僕は喜んで受けた。
レシートがあればその日の2杯目はリーズナブルという特典も後押しになった。
そして、頑張った後のコーヒー、身体が欲していた。
国道沿いの駐車場のあるスタバで彼はテイクアウトで準備してくださった。
「テイクアウトは紙コップなんだよ。」
彼はそう言いながら、紙コップのコーヒーを車内のホルダーに置いてくださった。
僕はすぐに飲み始めた。
僕の膝に紙袋が乗せられた。
「今朝のと同じ陶器のマグカップが販売されていたんだよ。プレゼントだからね。」
怪訝に思っている僕に彼はうれしそうに説明してくださった。
その様子が高校生みたいで可笑しかった。
僕はありがたく受け取った。
こうして思わぬタイミングで頂くご褒美、やっぱりうれしい。
いい思い出になるなと思った。
(2025年1月31日)