黄色のキャリーケース

京都市の企業向け人権啓発講座での講演が終わったのは15時半だった。
改正障害者差別解消法がテーマにあったが、それは僕にはハードルが高過ぎた。
僕はいつも通り、当事者としての思いを語った。
正しい理解が未来につながっていくことを信じて話をした。
集った皆さんがしっかりと受け止めてくださる空気が感じられてうれしかった。
僕は感謝を伝えて九条テルサの会場を後にした。
東京行きの新幹線のチケットは16時過ぎを予約してあった。
京都駅まで徒歩で15分くらいだろうか、僕達は急いだ。
僕はいつもとは反対の右手でサポーターの学生の左の肘を持った。
学生は右手で僕のキャリーケースを引っ張ってくれたのだ。
その状態でスマホのナビを見ながらの移動は学生にとっては結構大変だったと思う。
もう幾度も一緒に歩いている学生との阿吽の呼吸があってのことだった。
僕は京都駅の新幹線改札口で学生と別れた。
右手で白杖を持った僕が左手でキャリーケースを引っ張って移動するのは大変なのは
分かっている。
ホテルへ荷物を送ったり送り返したりの煩雑さを考えて最近この方法を選んだのだ。
ちなみに、点字ブロックと同じような黄色のキャリーケースにした。
キャリーケースを使うようになって、サポーターだけではなく、駅員さん達にも若干
の迷惑をかけてしまっている。
皆さん快く対応してくださるので本当に有難い。
新幹線の中ではノートパソコンを出してすぐに仕事を始めた。
翌日からの4日間の研修の準備をした。
東京に到着するまでの2時間あまりずっと仕事していた。
大塚のホテルに到着してメールチェックをしたら人権啓発講座の関係者からお礼のメ
ールが届いていた。
彼女が小学生の時に僕の講演を聞いた思い出も添えてあった。
もう10年以上前の思い出だ。
しみじみとした喜びが僕の中で膨らんだ。
蒔き続けてきた種はどれほどの数になるだろう。
その中で一粒でも二粒でも発芽してくれれば本望だ。
また明日からも右手に白杖、左手に黄色のキャリーケース、頑張って歩いていこう。
(2025年1月18日)