1年ぶりに訪れた中学校、
体育館には150名程度の1年生が待っていた。
12歳、13歳の少年少女達だ。
僕は午後に大切な会議が入っていた。
3,4時限目は100分くらいの時間があるのだが、60分くらいで終了することを了承
して頂いていた。
終了後は担当の先生と体育館から駅に直行する手筈だった。
僕はいつものように生徒達と向かい合った。
心を込めて語りかけた。
講演の後の少しの時間、生徒達からの質問に答えるつもりだった。
質問は次から次に出て止まらなかった。
僕は時間が気になって少し焦っていた。
結局、予定していた電車をあきらめた。
会議に遅刻することを選んだのだ。
生徒達の質問にひとつでも答えたいと思った。
会場の空気は笑って、時々しんみりして、そして真剣に未来を見つめた。
「いつもは授業中によく寝ている生徒達が皆起きていました。真剣に前のめりになっ
て聞いていました。思わぬ生徒が手を挙げていました。」
帰り際、先生は生徒達の様子を教えてくださった。
この種類の感想はよくある。
松永ワールドと表現されている先生方もおられる。
でも、実は、それは僕のワールドではない。
見えない僕が障害について一生懸命に話す。
見える人も見えない人も見えにくい人も、皆が参加できる社会について話す。
白杖を握りしめて未来を見つめて話す。
それを受け止めてくれた生徒達が創ってくれるワールドなのだ。
僕自身もそのワールドを感じることはよくあるのだ。
学校を出ようとした瞬間だった。
「松永さーん!」
別の校舎の上の階から少年達の大きな声がした。
僕は振り返って、声の方向を見上げた。
「何年生?」
「2年生でーす。」
昨年話を聞いてくれた生徒達だった。
「ありがとう。」
僕は声に向かって笑顔で手を振った。
大きく手を振った。
少年達も手を振った。
ほんの少しかもしれないけれどワールドは未来に向かう力になっていることを感じた。
(2024年11月9日)