出版社の担当者は有名なウナギ屋さんに僕を案内してくださった。
原稿のひとつにウナギが好物と書いていたからかもしれない。
そんなご馳走を頂けるだけでも幸せなことだと思った。
腹ごしらえをしてからタクシーで鴨川の河川敷に向かった。
今日の目的は新しい本の表紙の写真撮影だ。
僕はデザイナーから指定された黒のズボンに黒の靴だった。
上着のシャツは2枚用意したが、結局白杖が目立つ黒系統の服となった。
カメラマンはどれだけシャッターを押したのだろう。
百枚以上は撮影したような気がした。
空は秋晴れ、のどかな時間だった。
たった一冊の本のためにたくさんの人がそれぞれの立場で協力してくださっているの
を実感した。
光栄なことだと思った。
時々表情が硬くなるらしい僕に関係者はそっと声をかけた。
「松永さん、さっきのウナギを思い出してください。」
どうやら魔法の言葉になったらしかった。
撮影中に幾度か言われた。
自分で見ることはない写真、
でもなんとなく楽しみだ。
(2024年10月16日)