いつかどこかで

木曜日はだいたい午前も午後も用事があった。
ところが7月に入っての2回の木曜日、午後の大学の講義だけが用事だった。
15時15分からの90分の講義のために片道90分かけての出勤となったのだ。
ふと我儘に気づいた。
午前も午後も用事があれば忙しいと思っていたくせに、いざ午後だけの用事となると
出かけるのに何かしらのパワーが要るのだ。
よいしょ、どっこらしょっと言う感じなのだ。
しかも身体も重い。
ひょっとしたら身体は午前中でお休みモードになっているのかもしれない。
それでも休む訳にはいかないので出かけた。
自宅近くのバス停から比叡山坂本駅までのバスは座れた。
比叡山坂本駅から山科駅まで、山科駅から烏丸御池駅まで、烏丸御池駅から竹田駅ま
で、約1時間やっぱりずっと立ったままだった。
慣れている日常なのだがしんどいなと思ってしまった。
竹田駅からのバスは始発で座れる確率は高いのだがダメだった。
僕の前に待っておられた高齢者の集団の後に乗車したのでどうしようもなかった。
いや、待っていたのは僕の方が先かもしれなかったのだが、勢いに負けてしまったの
だ。
僕は仕方なく吊革を持って立っていた。
僕が降りるひとつ手前のバス停で乗車してこられた方が声をかけてくださった。
「前の席、空いてますけど座りませんか?」
僕は次のバス停で降りるのでと断りながらも感謝は伝えた。
そしてありがとうカードを渡した。
彼女はありがとうカードの僕の名前に気づいた。
「松永先生ですか?もうだいぶ前ですけどYMCAの専門学校でお世話になった者です。
お久しぶりでしかも横顔だったので先生と気づきませんでした。すみません。」
それからすぐにバスは僕の降りるバス停に停車した。
「僕を憶えていなくても、声をかけることを憶えていてくれてとてもうれしかったで
す。ありがとうございました。」
僕はそれだけを伝えてバスを降りた。
結局ずっと座れないでの出勤だったのだが心はとても爽やかだった。
疲労感も消えていた。
教室に入ってすぐに、僕は学生達にその話をした。
「君達ともいつかどこかで、そんな風に再会できたらいいね。」
(2024年7月12日)