見える人、見えない人、見えにくい人、皆が笑顔で参加できる社会、それが目標だ。
そこに向かって歩き続けること、それが僕のライフワークだ。
小学校、中学校、高校、大人の団体、いろいろ声をかけてくださる。
障害を正しく理解してもらう機会、僕は感謝して喜んで出かける。
可能な限りどこにでも出かける。
今回の小学校、10数年ぶりだった。
その当時の先生方はもういらっしゃらなかった。
どうして僕に声をかけてくださったのか尋ねたら、一人の先生の提案だったらしい。
数年前、別の小学校で勤務されておられた時に話を聞いてくださった先生だった。
僕のことを憶えていてくださって、僕の話を子供達に聞かせたいと思ってくださった
のだ。
僕はうれしくて握手を求めた。
感謝をお伝えした。
中間休みを挟んでの2時限の講演時間、あっという間に流れていった。
子供達は僕の話を真剣に聞いてくれた。
僕が投げかけたいろいろな質問に一生懸命答えてくれた。
120の未来が僕の前で微笑んだ。
講演を終えて玄関を出ようとした時だった。
少女が近づいてきた。
「松永さん、握手してください。」
その声は子供の声ではなく一人の人間の声だった。
僕は少女と握手をした。
お互いの手をギュッと握った。
少女の手がありがとうございますと囁いていた。
頑張ってくださいねとエールを送っていた。
僕は口に出した。
「ありがとう。」
僕と少女は顔を見合わせて微笑んだ。
「10歳という年齢は大人に向かって成長が始まる時だと思います。」
朝の挨拶の時に懇談してくださった校長先生の言葉がそのまま現実となっていた。
豊かな時間だった。
少しずつかもしれない。
ささやかかもしれない。
でもきっと目標に近づいている。
確かに近づいている。
帰りの電車はいつものように座れなかった。
残念だけどやっぱり立ったままだった。
地元の駅に着いて改札口を通り抜けてバスターミナルに向かおうとした時だった。
バスのエンジン音が聞こえた。
白杖の僕では間に合わない。
付いてないなとあきらめかけた時だった。
「待っていますからゆっくりきてください。」
マイクでの放送が聞こえた。
僕を見つけたバスの運転手さんの声だった。
僕はペコリと頭を下げてバスに向かった。
周囲に気をつけながらゆっくりと一歩ずつバスに向かった。
「君達の住む人間の社会にはやさしい人がいっぱいいるんだよ。」
今朝子供達に伝えた言葉を思い出した。
人間の社会、素敵です。
(2024年7月7日)