81歳

最寄りのJRの駅までバスを利用している。
平日の朝のバスはそれなりに込んでいる。
学生やサラリーマンの人達が動く時間だ。
しかも皆急いでいる。
だから僕は最後に降りるようにしている。
降りる際に前後の乗客の足に白杖が絡まったりしないためだ。
今朝も座席に座ったまま他の乗客が降りていく足音を聞いていた。
「皆降りていかれましたよ。」
隣の男性が声をかけてくださった。
僕はお礼を言ってバスを降りた。
「段さ、危ないですよ。」
彼は僕の後ろから降車を見てくださっているようだった。
その流れで僕は彼の肘を借りることにした。
込んでいる駅のホームはいつも怖い。
肘を持たせてもらうだけで恐怖感はほとんどなくなる。
有難いことだ。
電車を待つ間の立ち話で彼が81歳だと分かった。
「声も動きもお元気ですね。」
僕は感謝と一緒に伝えた。
「それがね、片目は緑内障でもう見えない。他にも身体はあちこちいろいろあってね
。」
詳しくはおっしゃらなかったけれど、療養中なのは理解できた。
「でもね、貴方の目と比べれば・・・。」
そこから後は言葉を濁された。
身体のどこであっても、病気とか怪我とか大変だ。
そこにそんなに違いはないと思っている。
でも僕はそれを言葉にするのは控えた。
言葉にしてもあまり意味がないと思ったからだ。
僕達は一緒に電車に乗った。
彼は僕を空いている座席に誘導してくださった。
山科駅で別れた。
「本当に助かりました。ありがとうございました。」
僕はしっかりと頭を下げてお礼を言った。
ありがとうカードも受け取ってもらった。
これから先の僕の人生、どんなるのかは分からない。
一日でも長く元気でいたいと思う。
でも、それは誰にも分からない。
彼の行動を振り返りながら、どんな風に生きていくのかどんな風に老いていくのか、
それは自分次第なのだと思った。
僕も、困っている人がいたら、寄り添える人でありたい。
(2024年7月3日)