竹田駅のバスターミナルでバスを待っていた。
突然横から声がした。
「間違ってたらごめんやけど。あんた洛西に住んでた人やなぁ。」
彼女は懐かしい友達に再会したような感じで話をされた。
僕が2年前まで住んでいた京都市西京区洛西ニュータウンの人だった。
年齢はおいくつくらいだろうか、
僕よりはだいぶ年上かもしれない。
見かけなくなったから心配していたとおっしゃった。
僕は2年前に滋賀県に引っ越したことを説明した。
それでも京都市内での仕事などは続けているから今日も竹田まできたことを話した。
「あんたは凄いなぁ。目が見えへんのにそうやって一人で出かけるんやからなぁ。
こんなところまで一人でくるんやから凄いわ。私と同じや。」
僕は笑いながら相槌を打った。
「洛西でもようあんたを見かけたで。」
彼女はどこで見かけたかをいくつも話してくださった。
「ケガせんようにといつも思ってた。元気で会えてほんまにうれしいわ。」
彼女は思うがままに話をされた。
洛西で会った時もそうだったのを思い出した。
ストレートな言葉には遠慮もなかった。
飾らない言葉が並んだ。
ひとつひとつがぬくもりのある言葉だと感じた。
「私だけちゃうで。みんなあんたを見てはったと思うで。」
僕は長年暮らした洛西を久しぶりに思い出した。
若い頃から暮らしてた。
暮らし始めた頃はちゃんと見えてた。
最後に観た景色もきっとそこなのだろう。
たくさんの人に見守られながら生きてきたのだ。
40年くらい暮らしたのだから、第二の故郷だったのは間違いない。
「この世じゃもう最後かもしれん。元気でな。ケガしたらあかんで。」
彼女はそう言って去っていかれた。
僕はふと昔テレビで見た意地悪ばあさんを思い出した。
言動には厳しさがあったがやさしい心の持ち主として記憶している。
「あの世でもまた会いましょうよ。」
僕はまた笑いながら彼女の背中に返した。
あの世では見えるかもしれない。
その時は彼女の顔を見てみたいと思った。
(2024年6月28日)