研修会の会場の前からバスに乗った。
バス停まで送ってくれたスタッフは、
僕がバスに乗る瞬間に、
真正面の座席が空いていること、一人がけの座席であること、肘掛があることを、
僕に伝えてくれた。
お陰で、僕は、徳島駅までの20分をのんびりと座って過ごした。
バスが徳島駅に着いた。
バスを降りて、深呼吸をした。
そこから、駅のロータリーの反対側にあると教えてもらっていた、
高速バス乗り場まで行かなければならない。
白杖を使っても、方向も判らないし、僕には無理だ。
足音に向かって声を出すしかない。
そのための、気持ちを整える深呼吸だ。
少し大きめの靴を引きずるような、
若者特有の足音が聞こえた。
「高速バス乗り場を教えてください。」
僕は、足音に向かって声を出した。
予想通り、足音は通り過ぎた。
と思った直後、
足音は引き返してきた。
「高速バス乗り場ですか?」
声の主は、20歳前後だと思える男性だった。
彼は、僕の依頼を快く引き受けてくれた。
遠くの町から、バスケットの試合を見にきた帰り、
この辺りの地理は判らないけれどと言いながら、
周りを見渡して、
乗り場を探して、僕を連れて行ってくれた。
慣れない街角、見えない55歳の僕と、今風の若者、
真っ青な秋空の下、こうして歩いている。
ちょっと離れた乗り場まで歩きながら、
僕は、なんとなくうれしくなった。
研修会で知り合った人達も、いい感じの人達だった。
今日はいい日だなと、思った。
徳島発京都行きの高速バスは、
3時間あまりで、京都駅へ着いた。
バスを降りて歩き出したけれど、
自分の位置が確認できない。
とりあえず、点字ブロックを探し出して、
それから、盲導鈴の音を手がかりに歩き始めた。
何とか地下街へ辿り着いたが、そこで降参。
流れる足音の群れに向かって、
「地下鉄を教えてください。」
これまたすぐに、20歳前後と思われる女性の声、
地下鉄の改札口までは結構あったが、
彼女はそこまで手引きしてくれた。
最近の若者は、結構素敵ですよ。
少なくとも、
若かった頃の僕よりも、ずっと素敵です。
僕は、若い頃、障害のある人のお手伝いをする勇気がありませんでしたからね。
(2012年10月21日)