咲いた、咲いた、チューリップの花が。
僕は上機嫌だったが、でも小さな声で歌った。
近所の人に聞かれると恥ずかしいと思ったからだ。
昨年の冬、視覚障害者の友人からチューリップの球根をプレゼントしてもらった。
見えない彼女が僕のために数種類の色を選んでくれた。
ひとつひとつが大きな球根だった。
僕は玄関先のプランターなどにそれを植えた。
冬の終わりくらいに出た芽はどんどん成長した。
そして4月初旬くらいから次々と開花した。
大きな球根だったからか大きな花が咲いた。
僕がこれまで知っていたチューリップでは一番大きな花だった。
僕はひとつひとつの花をゆっくりと触った。
掌で包み込めないくらいの大きさだ。
その見事さに感心した。
赤、白、黄色、ピンク、紫、想像した。
春の光を浴びている姿を想像した。
並んだ、並んだ、チューリップの花が。
歌いたくなるくらいにうれしかった。
それから咲いたことをメールで彼女に報告した。
彼女のうれしそうな笑い声が聞こえたような気がした。
(2024年4月15日)