「落ちないでね。落ちたら助けられないからね。」
防波堤に身を乗り出した僕に、
ガールフレンド達が、声をそろえる。
それから、海の透き通った様子、
色とりどりの小魚達の群れを、
僕に伝えてくれる。
こんな瞬間、僕は見えない人間だということを、
完全に忘れてしまっている。
僕は、もっと見ようと、防波堤から、海を覗き込む。
頭上では、時々、釣り人が釣竿を投げ下ろす時の、
風を切る音が聞こえる。
波のメロディ、遠くの漁船のエンジン音、
まるで、コンサートホールの特等席の気分だ。
立ち上がって、深呼吸する。
潮風は、極上の空気を、僕の肺に届ける。
空気がうまいということを、身体中の細胞が味覚する。
生きているんだなって、ただ、その実感にうれしくなる。
(2012年10月15日)