バレンタインデーに和菓子が届いた。
届けてくださったのは視覚障害者の先輩だ。
いや、ガールフレンドと表現した方が適切かもしれない。
彼女は僕より一回りは年上だがいつもチャーミングだ。
僕はすぐにお礼の電話をした。
「チョコレートばかりじゃ食べ飽きるだろうからわざと和菓子にしたのよ。」
彼女は悪戯っぽく笑った。
現実、もう僕はバレンタインとはほぼ無縁の中で暮らしている。
そういう年齢だ。
学生から所謂義理で頂いたものと、たまにバッタリ出会うガイドヘルパーさんからの
ものなどの数個だった。
ガイドヘルパーさんからのチョコは思いもかけないものだったせいかとてもうれしか
った。
僕にとってのバレンタイン、世間のイベントが静かに通り過ぎていく感覚かな。
ただ、ガールフレンドの和菓子は何故かちょっと心に染みた。
彼女の目はだいぶ見えなくなってきていることを僕は知っている。
進行性の病気だ。
きっとガイドヘルパーさんの目を借りながら選んでくれたのだろう。
祇園界隈では有名な老舗の和菓子だった。
その辺りで生きてきた彼女らしいチョイスだと思った。
彼女と会ったら、別れ際に必ずハグをしてくれる。
性別などを超えたものが実在することを今更ながら感じる。
「人生の最後まで見えていたらいいね。きっと大丈夫だよ。」
僕はハグの中でつぶやく。
「ケセラセラよ。」
彼女は笑う。
ホワイトデーには何か届けたいな。
ちゃんと持って行こう。
ケセラセラを確かめなくちゃ。
(2024年2月17日)