バスは駅のロータリーのいつもの場所とは違う一で止まったらしかった。
実はこれは僕にとっては大問題だ。
自分の居場所をイメージできないということは頭の中の地図が使えなくなるのだ。
迷子になってしまう原因となる。
「車が多くて、バスがいつもよりだいぶ後ろに停車しました。」
歩き始めた僕に乗客の女性が教えてくださった。
何も分かっていなかった僕はとても助かった。
その流れで僕は彼女の肘を借りて歩いた。
地元の比叡山坂本駅の乗車位置は電車の前方にあり、目的地の山科駅の階段は電車の
後方にある。
どちらかの駅でホームを移動しなければいけない。
地元の比叡山坂本駅のホームは古くて路面にガタガタがあり途中に柱もあり歩きにく
い。
山科駅は乗降客の数が多くてこれはこれで大変だ。
一長一短なのだが、慣れということで山科駅でのホーム移動を選択している。
電車は4両編成から12両編成まである。
1両の長さは20メートルだから12両の新快速電車の場合は200メートル程度を移動す
るのだ。
やはり怖い。
駅のアナウンスが電車が12両で到着することを告げた。
僕はできるだけ後方の車両に乗りたいと彼女にお願いした。
彼女は快く引き受けてくださった。
一緒に電車に乗った。
朝のラッシュで込んでいる状況だったので少しの会話しかできなかった。
それでも僕の状況を理解してくださったようだった。
電車が山科駅のホームに入った時におっしゃった。
「階段は降りて右です。」
「ナイス情報!ありがとうございます。」
僕は感謝を伝えて電車を降りた。
確かに少し右に動いたら階段があった。
それから地下鉄と京阪を乗り継いで枚方市に向かった。
午前の枚方市の高校、午後の京都市内の大学、いつもの仕事を終えて逆コースで山科
駅まで辿り着いた。
「松永さんじゃないですか。」
たまに比叡山坂本駅からの電車で一緒になる男性とばったり会った。
彼は買い物で山科駅で途中下車されたとのことだった。
その帰路に僕を見かけられたのだ。
勿論、僕はそれから彼の肘を持たせてもらった。
彼のサポートで山科駅のホームを移動した。
彼は熟知されていて、電車の降車口は比叡山坂本駅の階段に一番近い場所だった。
改札を出た後もそのままバス停まで送ってくださった。
結局、僕は往復ともホーム移動を手伝ってもらった一日となった。
ホームは一番緊張して恐怖感のある場所だ。
それが往復ともサポートしてもらえたのだ。
こういう日を運のいい日というのだろう。
運のいい日が一日でも多くありますように。
(2023年11月10日)