顔を持ち上げて空を見上げた。
目を見開いた。
それからじっと見つめた。
先日届いた中学生からの質問を思い浮かべた。
故郷の鹿児島県で僕の講演を聞いてくれた中学生からのものだった。
失礼になってしまうかもしれませんがという前置きで始まった質問だった。
「また、もし、目が見えたら何を見たいですか?」
質問を思い浮かべた僕は少し笑顔になった。
空を見つめながら笑顔になった。
「もしまた見えたら、電車の中から見ていた海を見たいです。
電車通学をした高校時代によく見ていたからです。
そして、その海の上にある空を見たいです。」
僕はありのままを伝えた。
そして続けた。
「何を見たいかと尋ねてくれる時、その人の心の中には見せてあげたいという気持ち
があるのだそうです。
ありがとう。」
一度顔を下に向けて、再度また空を見上げた。
記憶の扉がそっと開いていった。
高校の帰り道、途中の駅で電車を降りた。
いやその当時は汽車だったかもしれない。
駅からすぐの砂浜を歩いた。
目的もなくただのんびりと歩いた。
しゃがみ込んで桜貝を探した。
いくつか見つけた。
名前のままに淡いさくら色だった。
そして目前に海と空があった。
美しかった。
もう見ることはないのだなとぼんやりと思った。
まあ、仕方ないなとほのぼのと思った。
そしてまた笑顔になった。
(2023年10月29日)