電車は4両編成、6両編成、8両編成の3種類が運行しているのだと思う。
そしてそれぞれの車両に複数のドアがある。
何両目のどのドアから乗車したかまでは把握できていない。
だから、電車を降りてから階段までの距離は歩いてみないと分からないのだ。
階段がどこにあるかは小鳥の鳴き声の放送が目印だ。
小さな音量なので近づかないと聞こえない。
最初は予想の方向に歩く。
予想が当たっていればそのうち小鳥の鳴き声が聞こえ始める。
しばらく歩いても聞こえない時は逆方向に歩いてしまったということになる。
だいたい方向は当たるのだがパーフェクトではない。
たまに反対に歩いてしまっている。
そこは納得しながら、慎重にそして勇気を持続させて歩くのだ。
点字ブロックからホームの端まではわずかな距離しかない。
小さな古い駅なのでホーム自体にでこぼこがある。
所々に柱が立っている場所もある。
不用意にぶつかればバランスを崩す危険がある。
ホームの移動は本当に怖い。
今日は久しぶりに失敗した。
しかも小鳥の鳴き声の方向をなかなか確認できなかった。
幾度も立ちすくんで途方に暮れた。
襲ってくる恐怖心をなだめる。
そしてまた少し歩く。
僕の動きを変だと感じた女性が声をかけてくださった。
「違う方向に歩いて行かれたので。」
彼女はそうおっしゃった。
「階段の場所が分からなくなってしまいました。
案内してください。」
僕はお願いした。
彼女は引き受けてくださった。
階段はすぐ近くにあった。
5メートルくらいだっただろうか。
いつもは聞こえる小鳥の鳴き声をどうしてキャッチできなかったのか分からない。
一瞬キャッチしたのだったが頭の中の地図で整理できなかった。
風向き、疲労、いろいろな要因だろう。
彼女に心からの感謝を伝えてから階段を降り始めた。
見えないで歩くってやっぱり難しい。
もう20年もやっているのにやっぱり難しい。
それでも明日も僕は歩く。
歩きたいと思うから歩く。
気づいて助けてくださった人、本当にありがとうございました。
(2023年10月26日)