僕は手の爪も足の爪も自分で切っている。
見える頃は目で見ながら切っていたのだと思う。
だんだん見えなくなる中で長さなどを触覚で確認するようになっていった。
爪切りを右手で使いながら左手の人差し指で爪先を触って確認するのだ。
触覚での確認はついつい深爪になってしまう。
痛みを覚える直前まで切手しまうからだろう。
見える人に切り過ぎだと時々言われるが長過ぎるよりはいいと思っている。
爪きりの後はなんとなく気分もすっきりする。
好きな作業のひとつかもしれない。
夢中になれるからかな。
視覚障害者の友人の中には爪切りは怖いと言う人もおられる。
その人はやすりを使って手入れしているらしい。
怖いとか危険とかの感覚には個人差がある。
視覚障害者の中には階段を降りる時には必ず手すりを持つという人もおられる。
エスカレーターは絶対に乗らないという方もおられる。
どちらも理由は怖いという感覚だ。
先日出会った先天盲の人は猫が怖いらしい。
犬は大丈夫とのことなので理由を尋ねたら、猫はひっかくからとの答えだった。
ひっかかれた経験を尋ねたらそれはないらしい。
ひっかかれると痛いという知識が恐怖感を育んでしまったのだと思う。
猫は怖いのに蛇は怖くないとのことだった。
ひっかかないし噛みつくこともないかららしい。
ちなみに、彼は自分では爪切りを使うことはできない。
ずっと家族に切ってもらっていたからだ。
恐怖感は人それぞれ違うし変化もする。
見えなくなってから恐怖感を覚えるようになったものもある。
ホームに立っている時に通過する電車の音などはまさにそうだ。
一瞬身がすくむような気がしてしまう。
いつか出会った視覚障害者の人は電車とホームの間の溝が怖くてたまらないとのこと
だった。
彼女はできるだけ電車には乗らないようにして生活していると話してくださった。
やっぱり、感覚って人それぞれなのだと思う。
ちなみに爪切りの好きな僕は高級な爪切りを使っている。
京都のど真ん中にある刃物屋さんで3千円くらいする爪切りだ。
これだけは100円ショップのものには変えられないと思っている。
(2023年9月11日)