「今年の冬は寒いよね。」
何気ない会話から二人の時間がスタートする。
施設内にある小さな小部屋、テーブルのこちらとあちらとで向かい合う。
概ね一人につき30分程度のピアカウンセリングの時間だ。
障害当事者の僕が施設を利用している障害当事者の声に耳を傾けるのだ。
強制ではないので希望した人が利用してくれる。
毎月2回、この施設を訪れるようになってもう10年くらいになるだろうか。
「生きる」ということを確認したり、「幸せ」の意味を考えたりする大切な時間とな
っている。
今日話をした彼女とは特別な縁を感じている。
二人とも酉年で僕が丁度一回りお兄さんだ。
僕が養護施設で働き始めた頃、彼女は別の養護施設で中学生だった。
ひょっとしたらどこかで出会っていた可能性もある。
彼女は視覚障害とは別に身体障害もある。
もう20年くらい前、視覚障害者の忘年会の帰り道にロービジョンの彼女に手引きして
もらった時にそれを知った。
そして天涯孤独だ。
彼女が参加できる社会がなかなか見つからなかったのは想像できる。
この施設で18歳からもう35年くらい暮らしているということになる。
仕事はお菓子の箱を折ったり手芸用品を製作したりしているらしい。
週休二日の勤務で一か月の収入は工賃という名目の2万円程度だ。
僕はこの数字を初めて知った時に愕然とした。
ちなみに就労継続B型事業所の昨年の日本全体の平均工賃は1万5千円程度だ。
僕はどう説明をされてもこの数字を正常とは思わない。
ただ、これを拒否すれば、彼女が行く場所がないのも事実だ。
僕と会話する時の彼女に悲壮感はない。
僕の理解などとは別の次元で運命と向かい合っているのかもしれない。
今年一年の夢を尋ねた。
「コロナでの外出制限がなくなったら、回転寿司で鉄火巻きを食べたいね。」
僕は覆いかぶせるようにまた尋ねてみた。
「ビールを飲みながら?」
「ううん。酎ハイの方がいいねん。健康のためにもね。」
屈託のない笑顔と笑い声が小部屋の空気を包んだ。
鉄火巻きを想像しながら僕も笑った。
今年中になんとか一緒に行ければと思った。
(2023年2月17日)