秋が終わる頃だったと思う。
お店の入り口で数種類の雪かき用のスコップが売り出されていた。
金属製のものではなく固いプラスチック素材で軽くて丈夫そうなものだった。
ホームセンターではなく生活圏の近所のスーパーの店先だったので驚いた。
そんなに雪が積もるのだろうかと思ったが一応安心のために購入しておいた。
実際に使用することになるとは思ってはいなかった。
寒波は一晩で街を真っ白に染め上げた。
僕はスキーズボンのようなものに着替えロングのダウンジャケットをはおった。
軍手をして長靴を履いて外に出た。
格好だけは一人前だ。
長靴の半分くらいまでが雪に埋もれた。
生まれて初めての雪かきだった。
近所からもスコップの音が聞こえてきていた。
僕は自己流でスコップに玄関先や階段の雪を載せて庭の方に放り投げた。
幾度もやりながら軽いスコップの意味を実感した。
最後に軍手を外して庭の奥野手つかずの雪を触った。
その雪を頬に当てた。
それから口に含んだ。
目以外を使って雪を感じようとしている僕がいた。
真っ白が僕を包んだ。
真っ白な世界をそれだけでうれしいと感じた。
何の脈絡もなく生きていることを感じた。
幸せだと思った。
(2023年1月28日)