幼稚園に通う彼女の笑顔を憶えている。
声も憶えている。
僕が働いていた養護施設で彼女は育った。
10数年の歳月、一緒に暮らした。
中学校を卒業した彼女は神戸で暮らすことを選んだ。
母親と過ごしたかったのだ。
夢にまで見た親子の生活だったのだろう。
運命というものがあるのか、それは僕には分からない。
ただ、神戸を選んだがために彼女の人生は19歳で止まった。
1月17日が近づくと僕の足は自然にお寺に向かう。
彼女が眠っている寺だ。
ただ手を合わせて祈る。
本当の悲しみは歳月では解決できないことを思い知らされる。
神戸を選ぶか迷った時に彼女は僕に相談した。
条件は厳しいものばかりだった。
不安を感じた。
それなのに僕は何故引き止めなかったのだろう。
答えを出せない自問自答は28年目を迎えた。
最後のクリスマスの夜、レストランで一緒に食事をした。
駅まで送って改札口で別れた。
振り返ってバイバイと手を振った彼女は素敵な笑顔だった。
あの頃、僕は見えていた。
見えていたことを有難かったと心から思う。
(2023年1月17日)