僕は少しだけ点字が読める。
40歳で失明した後、京都ライトハウスで社会復帰のための訓練を受けた。
白杖歩行、点字の読み書き、音声パソコン、日常生活訓練などだ。
最初に点字を指先で触った時は愕然とした。
ただのブツブツだった。
週3回のペースで点字を学んだが遅々として進まなかった。
教えてくださった先生は全盲の年配の女性だった。
いろいろな訓練生に寄り添ってくださっているのが伝わってきた。
自分ではおっしゃらなかったが風の噂で先生の失明理由を知った。
17歳の時、通り魔に液体をかけられて一瞬にして光を失ったということだった。
それを知った時になかなか習得できなくてイライラする自分を恥ずかしいと感じた。
挫折しそうになる僕にかけてくださる先生の声は優しくて力強かった。
いつも励ましてくださった。
それからせめて五十音と数字は読めるようになろうと頑張った。
同期生の何割かはアルファベットまで読めるようになったから僕の努力嫌いはやはり
一流だったのだと思う。
点字を読めるようになって良かったと実感するのはトイレを使用した時だ。
流すボタンに「ながす」と書いてある。
ウォシュレットの好きな僕はここの点字にも助けられている。
「おしり」、「つよく」、「とめ」などのボタンをちゃんと使えるのだ。
先日お出会いした人の名刺には点字で肩書、氏名、電話番号が書かれていた。
僕との名刺交換のために手作りで準備してくださったものだった。
その気持ちがしみじみとうれしかった。
視覚障害者は点字を使用するとよく言われるが実際の使用率は低い。
一般の文字が読めなくなった人の中で点字使用者は1割程度ではないかと言われてい
る。
視覚障害原因の一位が緑内障、二位が糖尿病網膜症、障害発生時期はほとんどが中高
年という現代の日本では仕方のないことだ。
点字を教えてくれる場所、教えてくれる先生、そしてやる気、根気、すべてが整って
習得ということになる。
点字ができるということは失った読み書きを取り戻すということだ。
天国にいらっしゃる先生にあらためて感謝したい。
今日11月1日は「日本点字制定記念日」だ。
点字のなかった時代、見えない人は文字のない世界にいたということになる。
想像しただけで怖くなる。
点字、この素晴らしい文字はきっと永遠に僕達をサポートしてくれると思う。
(2022年11月1日)