僕は月に二度、視覚障害者施設でピアカウンセリングの仕事をしている。
施設を利用している視覚障害者の人の声に耳を傾けるという仕事だ。
特別な資格を有している訳でもないしスキルがある訳でもない。
たまたま大学が社会福祉学科だったということとこれまでの活動の延長ということに
なるのだろう。
少しでも仲間のためになればという思いで続けている。
9時に仕事が始まるので比叡山坂本駅を7時49分の快速電車に乗車する。
この電車だと乗り換えなしで行けるので有難い。
この電車を利用する時だけ彼と出会う。
彼は通勤でだいたいこの電車を利用しておられるらしい。
引っ越してきて間もない4月のことだった。
点字ブロックの上で電車待ちをしている僕に声をかけてくださった。
まだ慣れない僕は朝のラッシュの電車への乗車に不安そうに立っていたのだろう。
その日は肘を持たせてもらって無事に電車に乗車するということでスタートした。
回を重ねる毎に技術は向上していった。
やさしさが生み出すコミュニケーションの力だ。
昨日の彼は僕を見つけるとまた声をかけてくださった。
右肩にあったカバンを反対側に持ち替えてから僕の左手をその空いた右手の肘に誘導
してくださった。
それから移動して電車待ちの人の列の最後尾に並んで溶け込んだ。
電車に乗車後は乗客の方に僕が座れるようにさりげなく頼んでくださった。
それから空いた席の背中に僕の手を誘導してくださった。
これは前回お伝えした方法だった。
僕はスムーズに着席できた。
込んでいる車内、それ以外に会話はなかった。
山科駅に電車が到着した。
「お先です。」
彼はそっと僕に声をかけて降りていかれた。
「ありがとうございます。」
よし、今日も頑張るぞ。
僕は僕にできることで誰かの力になりたい。
誰かのために活動する場を社会と呼ぶのかもしれない。
動き出した電車の中でそう思った。
(2022年9月28日)