パソコンに向かって仕事をしながらふと手が止まってしまっていた。
コーヒーを飲みながら考えてしまっていた。
音楽を聞いていても途中で思い出していた。
畑仕事をしながらでもつい空を眺めていた。
故郷の親友がガンだと知ってからだった。
考えない日はなかった。
つい思い出してしまうのだった。
メールを書こうとしても途中で挫折した。
電話もなかなかできなかった。
日本人の二人に一人はかかる病気だ。
そういう年頃なのだ。
医療は進んでいる。
理屈をいくつも繰り返してもやはり動揺していた。
情けない小心者の僕がいた。
やっと思い切って電話した。
いつもの声が聞こえてきた。
いつもの声だった。
笑っていた。
少しだけほっとした。
病気との戦いはまだまだこれからだ。
頑張ってくれと僕は頼んだ。
真剣に頼んだ。
卒業アルバムの顔を思い出した。
白黒写真の凛々しい顔だ。
はっきりと思い出した。
きっと頑張ってくれると思った。
(2022年8月30日)