大学の夏休み中の補講として施設見学を実施した。
学生達を引率してライトハウス見学に出かけたのだ。
コロナの影響もあってか参加した学生は少なかったが皆楽しそうだった。
終了後、僕は学生達と別れて二条駅に向かった。
地下鉄を利用して山科でJRに乗り換えるコースにしたのだ。
これが一番早く帰れると思った。
これまで地下鉄二条駅は数えきれないくらい利用している。
でも迷子になった。
振り返ってみれば、二条駅の利用はほとんどサポーターと一緒の時だった。
頭の中の地図はいい加減なものだったのだ。
迷子の僕は足音に向かってサポートをお願いした。
学生みたいな若い女の子だったがとてもやさしく対応してくれた。
横を一緒に歩いてくれていたようで、点字ブロックの曲がる方向を教えてくれた。
間違って反対側のホームに行きかけた僕にそれも教えてくれた。
そして電車の乗車後にはわざわざ空いてる席に座るか尋ねてくれ案内してくれた。
それ以外には何も会話はなかった。
その後、彼女がどこの駅で降りていったかなど何も分からなかった。
暑い一日の仕事帰りの僕には天使に出会ったような爽やかなうれしさが残った。
帰宅してから久しぶりに後輩の女性と電話で話をした。
彼女は以前よく二条駅を利用していたのを知っていた僕は駅の構造を彼女に尋ねた。
「階段を降りたら下りのスロープです。
右側の壁を白杖でたたきながら歩くと白杖が抜けたところが右に曲がるところです。
そこからは点字ブロック沿いに進んで左に曲がる点字ブロックを探せばそこが有人改
札です。」
地図は彼女の身体が憶えている感じだった。
僕は構内についても尋ねた。
「改札を入ると数メートル先で左に曲がります。
並んでいる改札を左に見ながら進み次の曲がり角を左に、そしてまた左に曲がると下
り階段です。
コの字に曲がったことになります。」
僕は頭の中の地図を再確認しながら彼女に確認した。
「そうです。
階段を降りる時は先ほどの駅員さんと向い合せになる感じで降りていきます。
降り切って左を向いたら山科方面行の電車のホームです。」
見えない人に教える時には見えない人が一番上手と聞いたことがあるがまさにそうだ
った。
僕の頭の中の地図がどんどん完成していった。
「白杖の達人の僕が後輩に教えてもらうって悔しいけどよく分かったよ。
これでもう大丈夫だね。」
彼女は電話の向こうで照れくさそうに笑った。
爽やかな笑顔だった。
夕方出会ったサポーターの学生にしてもこの後輩にしても、爽やかさは夏によく似合
うとなんとなく思った。
(2022年7月29日)