京都市にある施設での用事を済ませて帰路に就いた。
最寄りの桂川駅のホームに降りる階段は左右にあるのだが、僕は左側を選んだ。
比叡山坂本駅で電車を降りた時に少しでもホームの移動距離を短くしたいからだ。
比叡山坂本駅のホームは古くてでこぼこしているし柱も多い。
できるだけ階段の近くで降車したいと思っている。
そのために場所を逆算して乗車しなければいけない。
桂川駅で電車の後方に乗車するのがこの方法につながるのだ。
その前に京都駅での乗り換えも大変だ。
京都駅の一日の利用者数は40万人を超えている。
これまでよく利用していた桂駅は3万人くらいだから10倍以上の人が行き来している
ということになる。
混雑も半端じゃない。
点字ブロックを利用しながらゆっくりと歩く。
それでも時々ぶつかるのは仕方ないとあきらめている。
ぶつかることが少なくなるように、白杖にもリュックサックにも鈴をつけている。
京都駅で無事乗り換えればそこからは後半戦だ。
比叡山坂本駅に到着して改札口を出る時、いつも安ど感に包まれる。
なんとか無事に帰ってこれたという感じの安ど感だ。
点字ブロックをたどってバス停まで行く。
ここは短い距離で分かりやすい。
バス停に着くと僕はリュックサックからイヤホンを出して装着する。
ソニーのリンクパズというイヤホンで、外部の音も聞きやすい設計になっている。
それからアイフォンを操作してサウンドスケープというアプリを立ち上げる。
「ヘッドホンの調整が必要です。あらゆる方向に10秒間首を動かしてください。」
僕は指示通りに首を動かす。
周囲にはきっと不審な行動と映っているだろう。
両耳にはイヤホンがありそれをつないでいるヒモが首の周囲に垂れ下がっている。
首からはアイフォンがぶら下がっている。
それで白杖をしっかりと握っているのだから、
きっと行動だけでなく見た目も滑稽だ。
サウンドスケープを操作して自宅をセットする。
その状態でバスを待ち、バスが来たら乗車する。
最寄りのバス停でバスを降りてサウンドスケープのナビを開始する。
僕の進むべき方向から案内音が流れる。
歩き出すとポイントまでの距離も教えてくれる。
「あと50メートル、あと30メートル」
ポイントまでくるとまた音声が流れる。
「曲がり角です。左に進むと自宅です。」
僕はその指示に従って進む。
ちなみに、この曲がり角は人と自転車だけが通れる細い路地だ。
それをピンポイントで指示してくれるのだから現代科学は素晴らしい。
家に帰り着いて白杖を玄関の傘立てに片づける。
自分の部屋に入るとイヤホンを外しアプリを終了する。
見えないで外出するというのはたやすいことではない。
体力、考える力、いろいろなサポートの道具、そしてやさしい人達、そこで初めて安
全が確保できるのだ。
無理をせず、自分のペースで歩き続けたい。
おかしな格好で歩いていますしおかしな動きをすることがありますが不審者ではあり
ませんのであしからず。
(2022年6月1日)