初めての駅で電車を降りた。
改札口に行くにはどこかにある階段を見つけなければいけない。
単独の時にはエレベーターやエスカレーターは基本的に使用しない。
駅の構造が頭に入っていないと混乱しやすいからだ。
階段の場所には鳥の鳴き声の音が流れている場合が多い。
鉄道会社によって駅によって音の種類は違うから特別な基準はないのかもしれない。
その音が聞こえるまで勘を頼りに動く。
聞こえ始めたら方向が正しかったということだし、いくらか歩いても何も聞こえない
場合は反対方向に歩いてしまっているかもしれないということだ。
その時は逆戻りするのだ。
ホームの移動は本当に大変だ。
ホームの移動中に次の電車や反対側の電車がくることがある。
両側で電車が発着する形式のホームを島型ホームと僕達は言う。
海に浮かんでいる島のようなものでどちらも落ちる危険性があるということだ。
そう考えると点字ブロックの存在はとても大きい。
その上を歩く限り落ちることはない。
「1番ホームを電車が通過します。」
アナウンスが教えてくれるが1番ホームがどちら側なのかは分かっていない。
動かないようにして通過を待つ。
大きな音がホームに近づいてくる。
音が一定の大きさを超えると場所はまったく分からなくなってしまう。
自分の立っている側に近づいてきているのか反対側なのか判断できなくなるのだ。
ただじっと音が通り過ぎるのを待つ。
先日踏切で亡くなられた方はきっとこの状況だったのだろう。
音から遠ざかりたかったはずだが実際には近づいてしまっておられたようだ。
日常歩きなれた場所でも工事中の大きな音が聞こえたりしたら遠回りをする。
音を判断できない状態になるというのは見えない聞こえない状態になるということだ
からあまりにも無茶だ。
階段を探して少しずつ移動していたら声がした。
「何か探しておられますか?」
若い女性の声だった。
「はい、改札口の方向に行きたいんです。」
彼女は僕に肘を持たせてくださった。
そして改札口まで誘導してくださった。
いろいろな音が駅にはある。
人間の声という音、本当にほっとする。
だから僕もしっかりと自分の声で感謝を伝える。
「ありがとうございました。助かりました。」
(2022年5月2日)