始まったばかりの朝の空気に包まれながらバス停に立っていた。
足音がゆっくりと近づいてきた。
「おはよう。何番に乗るんや?」
幾度か聞いたことのあるような声だった。
僕よりはだいぶお姉さんだと思う。
僕は乗る予定のバスの番号を告げた。
彼女は僕の横に立ったまま話された。
「今朝は寒かったなぁ。」
僕は相槌を打った。
しばらくして、彼女は朝焼けの雲を見つけられた。
「あっ、ほら、あの雲、お日さんが当たって綺麗やなぁ。」
彼女はその方向を指さしながら話されたようだった。
うれしさが伝わる声だった。
僕はどう答えるか迷ったが、仕方ないので小さな声で小さく頷いた。
しばらくして彼女は僕に尋ねられた。
「何番のバスに乗るんや?」
僕はあれっと思いながら番号を告げた。
また寒さの話になった。
結局、何番のバスに乗るかの質問は4度繰り返された。
寒い朝も数回あったが、朝焼けの雲はもう出なかった。
一瞬の美しさだったのだろう。
エンジン音でバスが到着したことが分かった。
行先案内の放送を聞いて僕はバスに乗車した。
続いて乗車された彼女は後ろから僕のリュックサックを掴まれた。
リュックサックを押して歩きながら教えてくださった。
「もうちょっと前、もうちょっと前。」
僕はゆっくりと前に進んだ。
「そこやそこや。」
彼女のリュックサックを押す力と声の向かう方向で空いてる席を確認できた。
僕は座ってから大きな声で伝えた。
「ありがとうございました。助かりました。」
うれしそうな声で返事が返ってきた。
「気いつけて行きや。」
彼女は次のバス停で降りていかれた。
ひょっとしたら僕を乗せるために乗車されたのかもしれないと思った。
ふと先日のラジオ放送を思い出して自分を試してみた。
昨日の夕食のメニューはなんとか思い出したが、
一昨日もその前も無理だった。
まだ頑張れるというのも空元気の種類なのかもしれない。
同じことを幾度も言い出したら教えてくださいね。
それから、美しい景色があったらそれも教えてください。
例えば、朝焼けの雲とか想像したら幸せな気持ちになれますから。
(2022年2月23日)