あの頃、僕は、大徳寺の近くに部屋を借りて、
千本北大路にある仏教大学に通っていた。
彼女は、同じ大学の同じ社会福祉学科だったが、
一緒に授業を受けた記憶は残っていない。
僕は、たまにしか学校に行かない学生だったし、
彼女は、確か、勉強よりも、バレーボールに夢中になっていた。
女子学生には縁が薄かった僕にとっては、数少ないガールフレンドの一人だった。
たまに会って、どんな話をしていたのだろう。
卒業後、一度だけ、お茶をしたが、
その後、会うことはなかった。
それぞれの人生を歩んでいった。
50歳になった時、彼女が、たまたま見たテレビに、
たまたま、僕が出演していた。
偶然が、僕達を再度結んだ。
と言っても、幾度かのメールだけで、
まだ、再会はしていない。
今回も、さわさわに彼女が来てくれた時、僕は、仕事でタイミングが合わなかっ
た。
彼女が置いていった花篭を触った。
バラの花の横に、姫りんごがあった。
それを触った時、
僕のことを、おにいちゃんと呼んでいた彼女の、
屈託のない笑顔が蘇った。
人は、視線が合っただけで、友達になれることがある。
人は、ちょっと会話をしただけで、友達になれることがある。
人は、握手をしただけで、友達になれることがある。
そして、何十年経っても、築いた思いは変わらない。
人間って、素敵な生き物だと、つくづく思う。
(2012年9月8日)