東京での会議は、京都からは日帰りが多いのだが、
今回は、二日連続なので、
僕は、これを、池袋のホテルで書いている。
18歳の秋から冬を、僕はこの街で過ごした。
たった半年間程だったのに、
池袋駅北口を出て、
アパートまでの道筋や、
その中の風景をしっかりと憶えている。
もう30年以上も暮らしている京都での、
去年や一昨年のことを、
いくら頑張っても思い出せないのに、
あの頃のことは、
まるで、昨日のことのようだ。
故郷への新年の挨拶をするために、
10円玉を何個か握りしめて、
公衆電話に並んだ時の、
ふと見上げた空の蒼さ。
何年ぶりかの大雪が、
東京を
真っ白に染め上げた静寂の街並み。
ネオンライトの中の、
客引きのお姉さんの、
一瞬の悲しそうな微笑。
仲間と遊び明かした朝、
高層ビルの間で輝き始めた太陽。
確かに、あの頃の僕は、見えていたんだ。
当たり前だけど、見えていたんだ。
今、見えなくなっている自分を、
僕は不幸だとは思わない。
あの頃の僕も、今の僕も、
僕にとっては、大切な僕に変わりはない。
でも、青春の風景が残っているのは、
素直に、うれしいことだと思う。
(2012年9月3日)