バスを降りて数歩進む。
白杖は自分の身体に並行になるように前に出す。
それを少し斜めにして対角線になるように持っている。
何かにぶつかるために動く時のポーズだ。
ゆっくりとわざとぶつかりに行くのだ。
そうやって目印を探す。
バス停の前には何かの壁みたいなものがあったのを記憶している。
それをキャッチして右に動く。
壁が終わった場所からまっすぐに歩道を横切る。
人波を横切るからゆっくりと慎重に進む。
足の裏が上り坂を感じたらそこがゴールだ。
大丸デパートの入り口ということになる。
そこで待ち合わせの人がくるまでの時間を過ごす。
YMCAの専門学校は三条柳馬場という京都のほぼど真ん中にある。
そこに向かう道はどこも狭い。
歩車道の分離もなく一方通行で交通量も多い。
昔ながらの京都の街中になる。
だから単独で学校に向かうのは難しい。
ゆっくりと行けば行けるのかもしれないがリスクもあるし時間もかかる。
学校の職員に大丸デパートの前まで迎えにきてもらうことにしている。
帰りは学生達と一緒に帰るということになる。
職員が迎えにきてくれるまでのわずかな時間、僕はこの時間が好きだ。
お地蔵さんみたいに街に溶け込む。
白杖を持ったお地蔵さん、ご利益もなさそうだ。
ただじっと、そしてそっと呼吸をする。
数えきれない足音が右に左に動いていく。
そしてこの時期はクリスマスソングが空から降り注ぐ。
すべてを包み込みながら街を彩っていく。
音景色の中で自然と心があたたかくなっていく。
お地蔵さんがそっと微笑む。
そこに存在していることに感謝する。
平和であることに心から感謝する。
(2021年12月22日)