仏壇には花が供えられている。
線香を立てて鐘を鳴らす。
星座して合掌する。
見えないこととは無関係にしっかりと目を閉じる。
心が落ち着いていく。
特別な宗教心もないし、来世を信じているわけでもない。
命が終われば土に帰っていくのだと思っている。
それなのに清らかな気持ちで掌を合わせているから不思議だ。
子供の頃は親族の中での儀式だったような気がする。
それだけ近くに死は存在していなかったのだろう。
年齢を重ねながらその数は少しずつ増えていった。
自分の人生の中で深く関わった人、傍らで話し合った人、一緒に喜んだり悲しんだり
した人、その人達の死と向かい合うようになっていった。
そして自分自身の命に終わりがくることを実感するようになった。
若い頃に感じた死への怖さも少しは小さくなったような気がする。
それでも掌を合わせながら別れた人達に話しかけている。
「僕はもう少し、こちらで頑張るよ。ありがとう。」
別れた命と向かい合う時間は自分自身の命と向かい合っているということなのかもし
れない。
毎日を大切に生きていきたいと思う。
(2021年9月25日)