授業を終えて、サポートの先生がバス停まで送ってくださった。
この高校では総合的な学習で点字を担当している。
僕の点字力はそんなに高くない。
点字力の高い視覚障害者の人が本を5ページ読む間に僕は1ページしか読めない。
40歳になってから学んだのだから仕方ない。
でも本当はそれに加えての努力不足もあるのも事実だ。
点字力は低くても高校生や先生方と関わることに意味があると思っている。
今日も点字を通して女子高校生と会話があった。
彼女の名前に櫻という字があった。
恥ずかしながら、僕は見えている頃にその漢字を記憶していなかった。
彼女は桜の旧字と僕に教えてくれたが分からなかった。
「左に木を書きます。右の上に貝を二つ、その下に女です。」
僕の頭の中で櫻が完成した。
僕はうれしくてありがとうと笑った。
彼女も微笑んだ。
こういう瞬間に人間同士は何かがつながるのだろう。
僕の知り合いに指点字を使うボランティアさんがいる。
左手の指、右手の指、それぞれ3本ずつの計6本の指を使って、点字の6つの点を表
すのだ。
見えない聞こえない人とのコミュニケーションの方法として使っておられる。
そもそもそういう人自体が少ないから使う機会も少ない。
使わないと力は劣るらしい。
ボランティアさんはテレビニュースを見ながら、アナウンサーの言葉を指点字にして
よく練習しておられるとのことだった。
その話を聞いた時微笑ましく感じた。
人間同士って素敵だなと思った。
実際にコミュニケーションが成立した時はきっと両者ともうれしいのだろう。
バス停まで送ってくださった先生は歩きながら蟷螂山の話をしてくださった。
学校は祇園祭の蟷螂山の鉾町にあるのだ。
昔見た鉾の上にあったカマキリを思い出した。
今年は山鉾巡行は中止となったが鉾立は行われたらしい。
先生にお礼を伝えてバス停で別れた。
人間同士、いいなと思った。
祇園祭は千年を超える歴史があるらしい。
僕の人生、長くてもせいぜい百年くらいだろう。
せっかくの人生、いろいろな人とのふれあいを大切にしながら生きていきたい。
(2021年7月23日)