いつもの散歩道、突然僕の横で一匹のセミが鳴き始めた。
大きな声で独唱を始めた。
僕の足は勝手に止まった。
地面に白杖の先を立ててグリップを両手で握った。
それから空を眺めた。
いや、眼差しが勝手に空に向かった。
澄んだ蒼い色の大きな空があった。
僕の耳に再びセミの声が届いた。
高校野球の試合開始のサイレンを思い出した。
今年の夏のプレーボールだ。
真っ白に浮かぶ雲も思い出した。
僕はうれしくなって微笑んだ。
気象予報士よりも早く梅雨明けを知らせてくれたセミを愛おしく感じた。
頑張って一緒に生きていこうね。
心の中でセミにつぶやいた。
(2021年7月12日)