何年ぶりだろうか。
枇杷を食した。
むしゃむしゃと食べたのではなく、ひとつひとつをゆっくりと味わった。
皮をむきながらほんのりとした枇杷の香りに気づいた。
指先で皮を感じながら丁寧に剥いていった。
色々な黄色が脳裏に浮かんだ。
淡い黄色から玉子の黄身の黄色まで濃淡それぞれの黄色が浮かんだ。
朧気な記憶ではどれが本物なのか分からなくなってしまっていることに気づいた。
20年以上も見ていないということはこういうことなのだろう。
種を指先で除いたら今度は茶褐色を思い出した。
掌に載せてもう少し黒に近かったかなと思いを巡らせた。
その時間が豊かであることをふと自覚した。
手間をかけて準備した割には食すのはあっという間だった。
飲み込むのを少しためらいながらわざとゆっくりと味わった。
特別に美味とは思わない。
ただこの季節だけの風味が心に浸み込んだ。
見えていても見えていなくても、そこは変わらないのは幸せだと思った。
(2021年6月14日)