メールの題名は「今宵晴れていれば」だった。
全盲の友人からのメールだった。
皆既月食のニュースをラジオで聞いていてうれしくなったらしい。
見える人に伝えるのは照れくさかったのだろうか。
僕にそっと伝えてくれた。
実は僕もそのニュースに気づいていた。
しかもスーパームーンということだったので余計にワクワクした。
見えない僕達には無縁の話題だと思われがちだがそんなことはない。
見えないからこそその映像に魅かれるのかもしれない。
メールをくれた後輩も昔は見えていた。
どこかで見た月を憶えているのだろう。
僕もはっきりと憶えている。
美しさに見とれたことは幾度もある。
忘れられない思いでだ。
「情報ありがとう。うれしかったよ。」
僕は知らなかったふりをして彼に返信した。
今宵晴れていても晴れていなくても、僕達はそれぞれの思いでの月を愛でるのだ。
(2021年5月27日)