介護士

緊急事態宣言が発出されているせいか、以前のようなラッシュは姿を消した。
それでも、朝の電車はそれなりに混んでいる。
いつもの烏丸駅から四条駅への乗り換えはやっぱり緊張する。
ホームから落ちないようにしなければいけない。
白杖が他の通行人の足に引っかかったりしないように気をつけなければいけない。
ホームを歩き、エスカレーターに乗り、改札口まで無事にたどり着く。
失敗が許されない日常がそこにある。
「一緒に行きましょう。」
エスカレーターに乗る直前に女性の声がした。
「ありがとうございます。肘を持たせてください。」
僕は彼女の肘を持ちながらエスカレーターに乗った。
「ホームは怖いので助かります。
改札口の点字ブロックまでお願いします。」
わずかな時間の中で、感謝と目的の場所を伝える。
これもサポートを受ける僕達のエチケットだろう。
「分かりました。」
彼女は改札口の手前の点字ブロックの上に僕を誘導してくださった。
お礼を言いながらありがとうカードを手渡した。
「介護士です。」
別れ際に彼女はそうおっしゃった。
堂々とした感じだった。
高齢者や障害者、いろいろな人の人生を支えてくださっているのだろう。
自分の仕事に誇りを持っておられるのが伝わってきた。
「ご苦労様です。」
僕は自然にそう返しながら笑顔になった。
プロの姿をかっこいいと思った。
(2021年5月9日)